身長差が15cm以上あると屈まないと声が聴こえづらいらしい
女性の平均身長より低めのわたしは、獅子神さんと30cm近く身長差があるからだ。もしこの記事が本当なら、獅子神さんに無理を強いていることになる。
普段からたくさん気を遣ってもらっているのに、この上さらに負担をかけていると知るのは辛いものがある。
〈女同士ですが低身長の子と話すときは屈んでいます〉
〈たぶん彼女は気づいてませんが合わせてます〉
〈ときどき本当に聞こえなくて無視したって思われることがある〉
etc.
思い返せば、確かに獅子神さんが身を屈めることは度々あった。てっきり、慣れていないわたしがボソボソと小声で話しているのが原因だと思っていた。
普段からボランティア先でも女性スタッフや子どもたちと触れ合うことが多い。小さな子に対してはわたしの方が屈むこともあるが、それはどちらかというと威圧感を与えないためや目線を合わせるためだ。聞き取りづらいと思ったことはなかった。
身体の成長にはいまさら期待できないので、よりハキハキ話さなきゃ──
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「で、声が枯れちまったわけか」
「ずみ゙まぜん」
「なんかやたらでけー声で話すなとは思ってたんだよ」
久しぶりのデート先が動物園というのもよくなかった。広い屋外だし、園内の賑わいに負けないようにとずっと大声を張り上げていたのが災いしたのだ。
閉園後に獅子神さん宅へ着いたときにはもう、声が枯れてカスッカスになってしまっていた。
「しょうがとはちみつだ。レモンティーで溶いてるから飲みやすいと思うぞ」
「あ゙りがどうございまず」
「……無理すんなよ」
獅子神さんの憐れみを含んだ生温かい視線がわたしを恐縮させる。彼にとっては「何をいまさら」かつ「本末転倒が過ぎる」滑稽な姿に見えているかもしれない。
はちみつたっぷりでとろみのある生姜を飲み込むと、少し喉の痛みが和らぐ気がした。効能優先と言っていたが、ふつうに美味しい。ごくごく飲めちゃう。こうやってチャチャっと美味しいものを用意できるところが獅子神さんのすごいところのひとつだ。
「あと、いい解決方法があるんだけど」
そう言った獅子神さんは、わたしをお姫さま抱っこしてソファに腰掛けた。獅子神さんのお膝に乗るかたちですっぽりと収まる。
「ずっとこうしておく、つーのは?」
ぶんぶんと横に振る顔はすぐに捕らわれて、ちゅうと唇を吸われた。口内に残る後味を舐め取られて、「ん。美味くできてたな」と満足げに笑う顔がかっこいい。やっぱりイケメンすぎる。
わたしは両手で顔を覆った。獅子神さんの顔が近すぎて、直視できない。こんなに輝くお顔を直近で拝まずに済む身長差があって助かっていたのだと、わたしは初めて気がついたのだ。
「獅子神さん、喉も落ち着いてきたのでそろそろ」
「やだ」
重いだろうに、甘えた声を出してはなかなか降ろしてくれない獅子神さんだった。